あなたは知っていた。
相手が、あなたに好意を寄せてくれていたこと。

それは何となくじゃなくて、
言葉や表情、仕草のひとつひとつから、確かに伝わってきた。

あなた自身も、気づけばずっと前から、その人のことが好きだった。

でも、ある日。
帰り際、彼が職場で誰もが可愛いと口を揃えるあの女性と、楽しそうに笑って話しているのを見た。

やっぱり――あんなに可愛い子と、あんな笑顔で話せるんだ。
私には、あんな笑顔で話してくれないのに。
きっと、彼にとって私なんて、特別じゃなかったんだろうな。

それだけで、心の中にじわっと冷たいものが広がっていく。

だって、自分がこんなに惹かれている人なんだから、
他の女性だって、きっとすぐに彼を好きになる。
そう思うと、胸の奥がざわついて、焦りや不安が止まらなくなる。

そして彼も、誰かとあっさりうまくいってしまうような気がして。

気づけばそんな不安と焦りが、心をいっぱいにしていた。

胸がチクリと痛んで、その瞬間、自分の中の感情があふれ出てしまった。

気づけばあなたは、彼のことを睨みつけていた。

嫌いなわけじゃない。
ただ、不安があふれてしまった。それだけ。

でも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。

でもね――
もしかしたら彼は、あなたのことが好きすぎて、うまく話せなかったのかもしれない。

あなたとは緊張してしまって、自然に笑えない。
けれど、恋愛感情のない女性とは、何も考えずに普通に話せる。

彼にとってその笑顔は、あなたと「本当はこう話せたらいいな」って思いながらの、
ただの練習だったのかもしれない。

しかも、あなたが見ていないと思っていた場所で。
あなたに気づかれるなんて、思ってもいなかったから――

本当に話したいのは、あなたなんです。

彼があなたのために、どれだけ慎重に、少しずつ距離を縮めてきたか。
言葉にせずとも、態度で好意を伝え続けてきた、その日々の積み重ねが、
たった一度の“睨みつけ”で、すべて崩れてしまうこともあるのです。

そんな一瞬が、彼の心に深い傷を残してしまうこともあるのです。
そして彼は、もう二度と、あなたのそばに来ないかもしれません。

あなたは「睨んだのは嫉妬」と彼が考えてくれると思うかもしれません。
でも彼には、それが伝わりません。

「やっぱり嫌われていたのかもしれない」
「もう社内で通報されていて、問題になっているのかもしれない」
「このまま関われば、自分の立場が危うくなる――そんな警告だったのか?」
「もう私に近寄らないで!」

そんな不安と恐怖が、彼の中で一気に膨らんでいきます。

なぜなら彼は、あなたに嫌われたと思われた瞬間、
恋だけでなく、仕事すら失うかもしれないリスクを抱えているからです。

職場での恋は、男性にとってとても繊細なもの。
女性が「気持ち悪い」「しつこい」と言えば、
その一言だけで、彼の社会的立場が崩れてしまう可能性すらある。

だから彼は、いつもぎりぎりの精神状態で、
それでもあなたに向き合おうとしていたのです。

そんな中での、あなたの“睨み”。
彼には、それが「もう話しかけないで」という最後通告のように見えてしまいます。

彼は、あなたに理由を聞くことすらできません。
「さっき、なんで睨んでたの?」なんて、怖くて言えないのです。
なぜなら、もしかしたら、すでに職場に通報されているのかもしれない――
そんな最悪の想像すら、彼の中では現実味を帯びてくるのです。

そしてあなたは、理由も分からないまま、大切な人との関係を失ってしまうのです。
彼が離れていった理由もわからず、自分もまた傷つくのです。

実は、恋のはじまりの頃って、
「好きな人にする態度」と「嫌いな人にする態度」がとても似ています。
彼も、あなたのその睨みが、どちらなのか判断できません。
その“ぎりぎりの状態”の中で、一歩踏み出していたのです。

だからもし、どうしても睨んでしまったのなら――
できるだけ早く、その理由を伝えてあげてください。
すぐにです。

彼は、あなたが思っている以上に、深く傷ついているかもしれません。
「さっきはごめんね」でも、「なにも嫌ってないよ」でも、何でもいい。
少しでも早く、あなたの口から、それを伝えてください。

そしてもし、少しだけ素直になれそうなら――

「さっき、あの子と仲良さそうだったから、ちょっとむかついたんだよね」って。

たったその一言で、彼にはすべてが伝わります。
あなたの気持ちが、本気だったことも。
不安だったことも。
そして、まだ終わっていないことも。

恋がまた、そっと動き出します。